健康経営とは?

健康経営とは?

近年、企業経営に影響を及ぼす要因のひとつとして、従業員の健康に注目が集まっています。従業員の健康リスクが増えれば、労働損失につながる可能性が高まり、結果的に企業が負担するコストが増大するからです。
少子高齢化で従業員一人ひとりの存在価値がこれまで以上に高まる中、従業員の健康を経営資源のひとつとして捉え、戦略的な維持・向上に取り組む健康経営の実践は、企業にとって重要な先行投資だといえるでしょう。
ここでは、国も推進する健康経営について、総合的に解説します。

1. 健康経営の定義

経済産業省の調査では、従業員の健康リスクが増大するほど、企業が負担する労働損失や医療費などのコストも増大することがわかっています。
健康経営は、こうしたコストが企業の経営を圧迫するのを防ぐため、従業員の健康維持を経営課題のひとつとして投資する考え方です。

健康経営によってすこやかな心身を保つことができれば、従業員は高いモチベーションを持って主体的に仕事に取り組みます。すると、組織の活性化や社員のエンゲージメントの向上が見込めるようになるでしょう。
こうした良い循環を実現することで、ゆくゆくは企業の業績や株価の上昇につながり、企業の価値を押し上げる結果になると期待できるのです。

健康経営のイメージ

2. 健康経営の歴史

健康経営という考え方は、どのように誕生したのでしょうか。健康経営の始まりから現在の取り組みについて解説します。

2‐1. 健康経営の始まり

健康経営の考え方は、1992年にアメリカの経営学と心理学の専門家であるロバート・H・ローゼンが、著書の中で提唱した概念「The Healthy Company」からスタートしています。ロバート・H・ローゼンは、健康な従業員が企業の収益性を高めると説き、それまで別々にマネジメントされていた「従業員の健康管理」と「経営管理」を統合することを推奨しました。

個人主義のアメリカでは、組織で働く従業員自身がみずからの健康に目を向け、その向上に取り組むよう促すことで、企業の生産性を高める「個人」に重きを置いた考え方を戦略の軸としています。
一方、この考え方をもとに広まった日本の健康経営は、大きな経営戦略の枠組みの中で組織が従業員の健康管理に関わる、「組織と個人」が融合した考え方が戦略の軸である点に大きな違いがあります。

2-2. 国内における健康経営推進の取り組み

国内の健康経営の取り組みは、2000年代後半頃からスタートしました。以前から超過労働などについての問題は取り沙汰されていましたが、2008年には長時間労働に伴う過労死事案の増加、賃金不払い残業といった問題の是正に向けて、厚生労働省が「労働時間適正化キャンペーン」を行っています。

この頃から、企業や従業員の意識が少しずつ変化し始め、2013年6月に閣議決定した「日本再興戦略」で本格的に国民の健康寿命の延伸について推奨されるようになりました。日本再興戦略は、「日本産業再興プラン」「戦略市場創造プラン」「国際展開戦略」の3つのアクションプランを打ち出し、その中の戦略市場創造プランで健康寿命の延伸を取り上げています。
2013年以降に国内でスタートした、具体的な健康経営推進の取り組みを見ていきましょう。

健康経営銘柄
健康経営優良法人認定制度は、優れた健康経営を実践している大企業や中小企業向けに創設されました。
そうした従業員の不安を解消するために、データ取得の目的や管理方法について経営層や担当者が丁寧に説明し、理解を得る必要があります。それも、健康経営を進める上での重要なポイントです。
健康経営優良法人認定制度
健康経営を進める上で、従業員は、データ取得のためのストレスチェックや健康診断を受診することを求められます。また、企業が企画する体力チェックやウォーキングといった健康イベントへの参加を求められることもあるでしょう。
日々忙しくしている従業員にとっては、そうした業務以外にするべきことが増えること自体が、ストレスになりかねません。それゆえに、心身に異常が出る前に健康状態のチェックをしておくことの大切さを、周知しておく必要があるのです。
日本健康会議
日本健康会議は、政府支援のもと、健康保険組合連合会や日本経済団体連合会、日本医師会、全国知事会などが参加。先進的な予防・健康づくりの取り組みを推進する民間主導の団体として、2015年に発足しました。
健康経営会議
健康経営会議は、経団連が中心となって設立された「健康経営会議実行委員会」が実施する会議です。健康寿命の延伸に貢献するために、健康経営を実践する団体と、それを支援する団体などが考え方や取り組みを共有します。
助成金制度
健康経営をバックアップするため、さまざまな助成金制度も設けられました。中小企業における労働時間削減や有給取得促進を支援する「働き方改革推進支援助成金」、生産性向上に向けた設備投資の一部を助成する「業務改善助成金」、分煙のための設備投資に対して支給される「受動喫煙防止対策助成金」、労働環境の改善をバックアップする「人材確保等支援助成金」などがあります。
自治体による健康経営等の顕彰制度
各自治体でも、健康経営の推進に向けた取り組みが行われています。経済産業省の調査によれば、全国の自治体で実施されている顕彰制度は94に上りました。
具体的には、以下に挙げるような健康経営等の顕彰制度があります。

自治体における顕彰制度の例

青森県 あおもり健康づくり実践企業認定制度
宮城県 スマートみやぎ健民会議優良会員認定制度
埼玉県さいたま市 さいたま市健康経営企業認定制度
青東京都杉並区 杉並区健康づくり表彰森県
石川県金沢市 金沢市はたらく人にやさしい事業所表彰
大阪府 大阪府健康づくりアワード
徳島県 健康づくり推進活動功労者表彰
宮崎県 金沢市はたらく人にやさしい事業所表彰

3. 健康経営が注目される背景と理由

続いては、現代社会において、健康経営が注目される背景と理由について整理しておきましょう。今の日本の、働き方に関する現状が見えてきます。

3-1. 生産年齢人口の減少や従業員の高齢化に伴う人手不足

日本の総人口は、2008年をピークとして減少の一途をたどっています。これに先んじて、生産年齢人口は1995年から減少を続けてきました。少子高齢化が進む中、総人口における生産年齢人口の割合が減少し、高齢者の割合が増加する傾向に歯止めがかかる要素はなく、労働力の確保は企業にとって喫緊の課題となっています。

人手不足の状態が続くと、当然ながら従業員一人あたりの負担が増大します。業務が終わらなければ長時間労働や休日出勤といった無理な働き方でカバーせざるをえず、将来的には蓄積した疲労によるパフォーマンスの低下、心身の健康を損なうことによる休職や退職のリスク増加などにつながる可能性があるのです。
健康経営の実践は、従業員の離職や退職を防ぎ、採用においても効果的なPR材料になると考えられます。人材確保に悩む経営者にこうした意識が浸透したことは、健康経営推進の大きな後押しとなっています。

3-2. 企業が負担する健康保険料の増加

毎月の給与から差し引く健康保険料は、加入者である被保険者および家族の医療費の支払いにあてる「保険給付費」と、高齢者の医療負担を軽減する「拠出金」に分けられます。
社会全体の高齢化による拠出金の増加と、心身の健康を害し医療機関を受診する加入者が増えたことによる保険給付費の増加で、企業の健康保険料の負担は重くなりました。「見えない人件費」ともいわれる健康保険料の削減には、社員が健康に働ける環境づくりが欠かせません。

3-3. 従業員の心身の健康維持を企業の責任と捉える風潮

長時間労働の常態化など、労働環境の悪化が注目される以前、従業員の健康管理は個人の責任と考えられてきました。しかし、2008年に施行された労働契約法は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定め、従業員が安全かつ健康に働ける環境づくりを企業の義務としています。
労働契約法の施行以降、社員の健康を維持することについて、企業の責任と捉える風潮が高まりました。2000年代後半から本格化した健康経営の取り組みも、こうした風潮に後押しされたものと考えられます。

4. 健康経営に取り組むメリット

健康経営に取り組むと、どのような効果が期待できるのでしょうか。具体的に4つのメリットをご紹介します。

健康経営に取り組むメリット

4-1. 労働生産性向上

従業員が心身ともに充実した状態で働くことができれば、社内が活性化します。業務効率や生産性の向上にも期待できるでしょう。

4-2. 欠勤や休職、離職率の低下

健康経営に取り組むと、不規則な労働による体調不良やストレスが減り、働きやすい環境が実現できます。健康上の理由による欠勤や休職が減少するので、離職率の低下にもつながります。

4-3. 企業イメージ、ブランドイメージの向上

健康経営を実践し、会社が「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」に選出されると、対外的なイメージが向上します。社員を第一に考え、勤務環境の改善に取り組んでいる企業として、顧客や求職者からの信頼感が高まるでしょう。

4-4. 医療費の削減

健康経営によって医療機関を受診する従業員が減ると、企業の医療費負担を削減できます。
少子高齢化で拠出金の減少は期待しにくいですが、医療機関を受診する加入者が減れば医療費の支払いにあてる保険給付費も減少するため、保険料の一部を負担している事業者にとって大きなメリットです。

5. 健康経営に取り組む際の注意点

健康経営は、企業にさまざまなメリットをもたらします。導入の際には下記の3点に注意し、計画的に取り組んでいくことが大切です。

5-1. 効果が見えにくい

健康経営は、実行してすぐに効果が出るものではありません。従業員の心身の健康を向上させることによって、ゆっくりと業績に反映されていく取り組みであることを理解し、性急に効果を求めないようにしましょう。
導入当初は投資対効果が数字で見えにくいことを理解した上で、長期的な視点で施策を展開する必要があります。

5-2. 従業員が負担に感じる場合がある

健康経営の施策には、運動講座やセルフケア研修など、従業員参加型のプログラムがあります。課題が増えることを負担と感じる従業員もいるため、実施の目的と従業員にとってのメリットを丁寧に説明してから行うようにしましょう。

5-3. 意識の統一を図るのが難しい

健康経営は全社で取り組むことによって成果が得られるものですが、ヘルスリテラシーには個人差があるのが現実です。経営陣など、影響力の強い人物を旗振り役として、企業全体の意識の向上に努めましょう。

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