
健康経営銘柄
- 健康経営銘柄
健康経営の重要性に気づき、導入を検討している企業の担当者の中には、「健康経営銘柄」について聞いたことがある方も多いでしょう。健康経営銘柄に選定されることは、健康経営を実践している企業として対外的な評価を得るのに役立ちます。
ここでは、健康経営銘柄の基礎知識や健康経営銘柄に選定されるメリットのほか、評価基準について解説します。
1. 健康経営銘柄とは?
まずは、健康経営銘柄の概要についてご説明します。
1-1. 健康経営に取り組む上場企業を選定・公表する取り組み
健康経営銘柄の選定制度がスタートしたのは、長時間労働に起因する過労死の増加、賃金不払い残業など、労働環境が健康に与える影響に注目が集まり、政府や企業、従業員自身の意識が高まった2015年のこと。経済産業省と東京証券取引所が共同で行うもので、従業員の健康維持・健康管理に戦略的に取り組む「健康経営」を実践している企業を選定・公表します。
対象となるのは、東京証券取引所に上場している(TOKYO PRO Market上場会社を除く)33業種で、業種ごとにそれぞれ原則1社ずつ選定されます。ただし、該当企業がない場合はその業種から選定はなく、また1つの業種につき複数社が選定される場合もあります。「健康経営銘柄2022」では、32業種、50社が選定されました。
1-2. 健康経営優良法人との違い
健康経営銘柄と併せてよく聞く言葉に、「健康経営優良法人」があります。
健康経営優良法人を認定しているのは、健康保険組合連合会や日本経済団体連合会、日本医師会、全国知事会などが参加し、先進的な予防・健康づくりの取り組みを推進するために創設された「日本健康会議」で、認定対象企業は東京証券取引所の上場企業に限りません。
健康経営に取り組んでいる企業をクローズアップすることで、従業員のロイヤルティを向上させたり、顧客や求職者の信頼性を高めたりすることを目的として、多くの企業が健康経営優良法人に認定されています。
「健康経営優良法人2022」には、大規模法人部門2,299法人、中小規模法人部門12,255法人が認定されました。
2. 健康経営銘柄選定のフロー
健康経営銘柄は、下記の3つのフローを経て選定されます。

2-1. 健康経営度調査の実施
健康経営銘柄の選定や、健康経営優良法人の大規模法人部門で認定を受けるには、経済産業省が実施する「健康経営度調査」を受ける必要があります。
調査の内容は毎年少しずつ異なりますが、専門家が社会状況を踏まえて決定し、結果を精査して健康経営への取り組み度に対する評価をフィードバックしてくれます。
健康経営銘柄の選定を目指す上場企業は、専用サイトで調査票をダウンロードし、記入後にアップロードして提出します。
健康経営銘柄の選定には必須の調査ですが、回答することでフィードバックがもらえるため、「選定を目指すことは決まったが、外部に公表できるような具体的な取り組みはまだしていない」「何から手をつけていいのかわからない」といった企業にも役立ちます。結果をもとに、自社に足りないものを整理することで、やるべきことが明確になり、健康経営が前進します。
2-2. 評価基準にもとづき候補を選出
健康経営度調査の回答を確認し、東京証券取引所の上場会社(TOKYO PRO Market上場会社を除く)で、評価結果が上位20%にあたる企業を健康経営銘柄選定の候補とします。
評価基準は下記の5つで、それぞれを点数化して算出します。なお、評価基準の配点ウェイトは、その年の状況を鑑みて設定されます。

- 経営理念・方針
- 健康経営が企業の経営理念や、方針に組み込まれていること。また、取り組みを社内外に発信していること。
- 組織体制
- 健康経営に取り組むための組織体制があること。また、その人員が十分であること。
- 制度・施策実行
- 自社の課題にもとづいて、健康経営を実現するための制度や施策が策定され、かつ高い精度で実行されていること。
- 評価・改善
- 健康経営を実現するための制度や施策について、PDCAサイクルを回していること。
- 法令遵守・リスクマネジメント
- 健康経営を行うにあたって、きちんと法令を守り、リスクを回避していること。
2-3. 健康経営銘柄の最終選定
候補となった上位20%の企業に対し、財務指標スクリーニングを実施します。また、下記に該当する企業には、現在の点数に一定の加点が行われます。
<加点の対象となる企業>
- ROE(自己資本利益率)の直近3年間平均が0%以上ある企業
- 前年度の健康経営度調査に回答している企業
- 社外へ積極的に情報を開示している企業
これらの加点を経て、最終評価となる配点を算出して選定企業を選出します。選定企業は各業種原則1社、最大33社ですが、該当する企業がない業種からは選定されません。また、1業種から複数社選定される場合もあります。
3. 健康経営銘柄を取得するメリット
健康経営銘柄の取得には、それなりの準備と手間がかかりますが、選定を受けるとさまざまなメリットがあります。
3-1. 企業イメージが向上する
健康経営銘柄は、東京証券取引所に上場している企業のうち、わずか数十社のみに与えられる評価です。選定を目指して健康経営に取り組む企業が増える中、健康経営銘柄への指定を目指す多くの企業の中から選ばれることで、「社員を大切にした経営を行っている企業」として良い企業イメージが定着します。
3-2. 社内の働き方改革が進む
社内の健康経営に対する意識が高まると、残業や休日出勤の削減といった働き方改革の取り組みが進みます。
すると、社員の生産性が向上して仕事の質が上がります。一人ひとりが余裕を持って働けるようになりますので、「社員がいきいきしていて気持ちが良い」「仕事のパフォーマンスが高く、信頼できる」といったように、取引先からの評価にもつながるでしょう。
企業にとっては、残業代や休日手当などのコストが削減できることもメリットのひとつです。
3-3. 従業員エンゲージメントの向上
従業員の健康を守ろうとする企業の姿勢と、実感できる労働環境の改善は、従業員のエンゲージメントを向上させます。従業員は「この会社に貢献したい」と思うようになり、休職率や離職率の低下が期待できます。
身体的・精神的な不調で医療機関を受診する社員も減るので、企業が負担する医療費も削減され、企業と従業員のWin-Winの関係を築くことができるでしょう。
3-4. 採用への好影響
選定企業には、社長に対する講演依頼や取材依頼といったメディア露出の機会が増える可能性があります。すると、「働きやすい企業」として求職者の目にとまる確率が高まり、採用の母集団の拡大が期待できます。
また、「働きやすいこの会社を、もっと多くの人に知ってほしい」と考える社員が増えることで、リファラル採用(社員に友人や知人を紹介してもらう採用方法)の増加につながる可能性も出てくるのです。
4. 健康経営銘柄を取得する際の注意点
健康経営銘柄の取得は、思い立ってすぐにできるものではありません。下記の2点を踏まえて、準備を進めましょう。
4-1. 社内体制を整える手間がかかる
健康経営銘柄の選定を受けるには、「経営理念・方針」に健康経営について盛り込むことと、組織体制を整備することが求められます。社内で内容について検討し、具体的な落とし込みをする期間が必要です。
4-2. 自社だけでなく、広域な取り組みが求められる
健康経営度調査では、「スコープの拡大」がひとつの項目として設定されています。これは、社会に向けて健康維持のためのプログラムを実施していたり、取引先の健康経営の取り組みをサポートしていたりするなど、自社以外にも健康経営の視点が向いているかどうかを見るものです。
自社内での取り組みに加えて、社外に対する継続的な取り組みが求められるため、長期的な視野で計画を立て、地道に努力し続けなくてはなりません。
5. 健康経営銘柄の評価基準
経済産業省によれば、2023年度の健康経営銘柄の評価基準は下記のとおりです。
2023年度 健康経営銘柄の評価基準

※引用「健康経営銘柄2023認定基準」経済産業省
6. 健康経営銘柄とホワイト500の違い
ここで、混同しがちな「健康経営銘柄」と「ホワイト500」と呼ばれる制度の違いについて整理しておきましょう。
6-1. 健康経営銘柄
健康経営銘柄は、東京証券取引所に上場している企業(TOKYO PRO Market上場会社を除く)のみを対象とした制度で、1業種につき1社の選定を原則としています。
6-2. ホワイト500
ホワイト500は、健康優良法人認定制度の「大規模法人部門」に選出された企業のうち、上位500社に含まれる法人のことです。
長時間労働や賃金未払いの残業が蔓延するなど、コンプライアンス意識の低さの象徴となっているのが「ブラック企業」。これ対して、ホワイト500に認定されれば、経営者の自覚ある行動のもとで、優良な健康経営が行われている「ホワイト企業」であることが公的に証明されますので、ブランドイメージが高まります。
7. 健康経営銘柄と株価
経済産業省は、健康経営について「従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上へつながることが期待される」としています。実際、大和証券が行った「健康経営銘柄2020」の株価推移と東証株価指数(TOPIX)の比較調査によれば、健康経営銘柄に選定された企業の株価指数は、東証株価指数を上回っていることがわかりました。健康経営銘柄の選定を受ければ、健康経営に戦略的に取り組むことで安定した収益を出す企業として、投資家からも高い評価を受けられるようになるでしょう。
ただし、健康経営は、短期的に成果が現れるものではありません。首尾良く健康経営銘柄に選定された企業も、真価が問われるのは選定を受けた後といっても過言ではありません。
各企業の努力の成果がより色濃く株価に反映されるのはこれからであり、健康経営を継続して進めていく必要があるのです。
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