
健康経営と福利厚生費
- 福利厚生
少子高齢化や価値観の多様化で従業員の確保が難しくなる中、従業員の健康維持・増進を経営課題として考える「健康経営」が注目を集めています。初めて健康経営に取り組むなら、まずは導入が手軽な福利厚生を活用するのがいいでしょう。既存の福利厚生を活用するほか、新たに外部のサービスを取り入れることも可能です。
ここでは、健康経営を推進する際に見直しておきたい、福利厚生費について解説します。
1. 福利厚生費とは
福利厚生は、従業員とその家族に対して企業が提供する、「給与や賞与、インセンティブ以外の報酬やサービス」のことです。法律で義務づけられている健康保険、厚生年金保険、介護保険といった福利厚生のほか、企業が従業員サービスの一環として独自に取り入れるものも福利厚生に含まれます。
なお、こうした福利厚生全般に活用される費用のうち、財務会計上の必要経費として計上できるのが福利厚生費です。福利厚生費として認められるには、下記の条件を満たす必要があります。

2. 福利厚生の種類
続いては、福利厚生の種類について確認しておきましょう。福利厚生には、法律で義務づけられている「法定福利厚生」と、各企業が独自に導入する「法定外福利厚生」の2種類があります。具体的な例を含めて、違いを解説します。

2-1. 法定福利厚生
法定福利厚生は、法律で最低限義務づけられている福利厚生で、企業の義務です。具体的には、下記の6種類があります
<法的福利厚生の種類>
- 健康保険(会社が半額負担)
- 介護保険(会社が半額負担)
- 厚生年金保険(会社が半額負担)
- 雇用保険(一部を除き会社が3分の2を負担)
- 労災保険(会社が全額負担)
- 子ども・子育て拠出金(会社が全額負担)
2-2. 法定外福利厚生
法定外福利厚生は、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高め、能力を発揮しやすい環境を整えるために会社が任意で設けるサービスです。法定外福利厚生にはさまざまな種類があり、近年は会社の特徴を前面に押し出した個性的な導入方法で注目を集める企業も少なくありません。
法定外福利厚生としては、下記のようなものがあります。大きく分けて、自社で運用できるものと、外部のサービスを導入するものがありますので、会社の状況に合わせて導入を検討しましょう。
<自社運用できる法定外福利厚生>
- 家族手当
- 住宅手当
- 育児休暇
- 交通費
- 資格取得手当 など
<外部のサービスを導入する法定外福利厚生>
- スポーツクラブとの提携、優待
- 資産形成
- 育児支援サービス など
3. 健康経営に貢献する福利厚生
健康経営の実現に向けて導入したサービスにかかる費用を福利厚生費として計上できれば、企業は納税金額を圧縮することができます。健康経営を行うにあたっては、すでに実施している福利厚生を活用するほか、福利厚生費として認められる条件を満たした外部のサービスを取り入れるといいでしょう。
健康経営につながる外部サービスを選ぶ際は、下記に挙げる3つの観点を基準として、内容を検討することをおすすめします。
3-1. 心身をケアできる福利厚生
心身がケアできる福利厚生とは、全企業で実施が義務になっている健康診断が代表的です。一般的な診断内容にオプションとしてがん検診などの項目を加えたり、人間ドックにグレードアップしたりといったことも、従業員の健康に対する意識の向上につながります。
また、メンタルヘルスに関する不調の解消も重要です。「令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、メンタルの不調で1ヵ月以上休職している従業員がいる企業は9.2%にまで上っています。それにより休職から退職につながるケースも少なくありません。カウンセラーや相談窓口の設置、早期発見のためのストレスチェックなどを行うことが大切です。
3-2. 食生活の改善ができる福利厚生
従業員の中には、朝食をとらずに出勤する人や、ランチはいつもカロリーや塩分の高い外食ばかりに偏っている人も少なくありません。食生活の乱れは、健康に大きな影響を及ぼします。会社が福利厚生の一環として食生活をサポートすることは、従業員の健康を維持する上で、非常に意味があるといえるでしょう。
具体的には、お弁当の提供や食事管理をサポートするアプリの導入などが考えられます。
3-3. 運動不足の解消ができる福利厚生
食事と同様、運動も健康な生活には欠かせない大事な要素です。運動不足が続くと生活習慣病をはじめとした病気になりやすいほか、メンタルヘルスにも影響を与えかねません。
全員で行える運動プログラムを取り入れる、スポーツ施設の優待などで運動習慣を定着させるといった方法が考えられます。
4. 福利厚生のサービス例
続いて、健康経営の実践に向けて導入できる法定外福利厚生の中から、「健康診断やストレスチェック」「カフェテリアプラン」「ヘルスケアアプリ」の3つにフォーカスして詳しくご紹介します。
4-1.健康診断
労働安全衛生法第44条にもとづいて、事業者には健康診断の実施義務があり、労働者には健康診断を受ける義務があります。
「従業員の健康診断受診率100%」は、健康経営優良法人の認定や、健康経営銘柄の選定における評価項目のひとつでもあるため、健康経営に取り組む企業にとっては最初にクリアすべき課題だといえるでしょう。
4-2. ストレスチェック
ストレスチェックは、常時50名以上の従業員がいる職場で実施が義務づけられている制度です。
ストレスに関する設問に答えてもらい、自身のストレスの状況を自覚してもらうことで、早期のメンタルヘルス不要の発見やその対策につなげるために行われます。
4-3. カフェテリアプラン
カフェテリアプランは、選択式の福利厚生制度のことです。
福利厚生を充実させても、すべての従業員のニーズが満たされるとは限りません。利用できない福利厚生が多い従業員は、反対に不満が溜まることもあるでしょう。カフェテリアプランは、あらかじめ従業員の年齢層や働き方、事業内容など、企業風土に合わせてメニューを調整しておくことが可能です。従業員には、設定したメニューの中から好きなものを選んでもらえるため、不公平感の解消に役立ちます。また、健康関連や医療分野のメニューを組み入れておくことで、従業員にとって利用しやすく健康管理への関心が高まります。
従業員が積極的に健康関連の福利厚生を利用することで、結果的に健康促進につながるだけでなく、企業に対する従業員の満足度のアップも見込めます。
4-4. ヘルスケアアプリ
福利厚生の一環として、手軽に健康管理が行えるヘルスケアアプリを導入する企業も増えています。
ヘルスケアアプリの提供企業によってサービス内容は異なりますが、一般的には下記のような健康管理を行うことができます。
<ヘルスケアアプリのサービス例>
- 従業員の毎日の歩数や歩行距離の計測、記録
- エクササイズ動画の配信
- 体重や体脂肪率の記録
- 記録に応じたポイントシステムで現金やギフト券を還元
基本的な機能を活用して、会社全体でウォーキングのイベントを開催したり、毎月ランキングをつけてトップの従業員を表彰したりすると従業員全体のモチベーションが高まり、一人ひとりが主体的に取り組むようになります。コミュニケーションの活性化も期待できるでしょう。
いつも持ち歩いているスマートフォンさえあればゲーム感覚で取り組めるので、健康に無関心な層を取り込みやすいこともメリット。自然と健康習慣を定着させることができる福利厚生です。
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