テレワークと健康経営

テレワークと健康経営

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新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに導入する企業が増えた「テレワーク」。現在では、働き方のひとつのスタイルとしてすっかり定着しましたが、運動量が激減したことによる健康への影響は大きく、健康経営の視点では注意すべき点が多いといわれています。
ここでは、テレワークが普及した背景やメリット・デメリットについて紹介。また、テレワークによる従業員の健康課題と、健康経営を行う企業が積極的に行っていくべきことなどついても解説します。

1. テレワークとは

まずは、テレワークの定義について確認しておきましょう。
テレワークは、Tel(離れて)とWork(仕事)を組み合わせた造語です。厚生労働省は、テレワークを「情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方のこと」と定義しています。

2. テレワーク普及の背景

日本テレワーク協会の母体が1991年に発足した当時、大手企業を中心にサテライトオフィスを導入する企業が散見されたものの、対面コミュニケーションを重視する企業が多かったことなどから普及は進みませんでした。
政府は、2016年に「2020年までにテレワーク導入企業を2012年度比で3倍」「週1日以上終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーカー数を全労働者数の10%以上」とする目標を設定し、労働力不足を解消する手段としてテレワークを一層推進してきました。

そうした中、コロナ禍による外出制限で物理的に出社が困難になったことを契機として、暫定的にテレワークを導入する企業が増加。その後、デジタル技術の進展もあってテレワークでも十分に業務対応できることがわかり、そのままテレワーク導入に移行する企業も増えました。
例えば、東京都が発表したテレワークの実施状況によると、都内企業(従業員30人以上)テレワーク実施率は一時期60%以上に達し、2022年4月では52.1%と半数を超えている状況です。

東京都のテレワーク実施率

東京都のテレワーク実施率

※東京都「テレワーク実施率調査結果」(2022年5月)

3. テレワークのメリット

テレワークには、どのようなメリットがあるのでしょうか。従業員と企業、両方の視点から紹介します。

<従業員のメリット>

通勤の負担がない
出社義務がなくなるため、毎朝決まった時間に家を出る必要がありません。満員電車に乗る負担もなくなります。
時間を有効に活用できる
テレワークで削減された通勤時間や客先への移動時間を活用することによって、家事や趣味、育児の時間を確保することができます。ワーク・ライフ・バランスの実現につながり、仕事や会社に対する満足度が向上します。
育児や介護と両立しやすい
テレワークによって自宅にいる時間が増えることで、子供とのふれ合いや、介護が必要な家族のケアにも時間を割けるようになります。心に余裕が生まれ、仕事にも良い波及効果が期待できるでしょう。

<企業側のメリット>

オフィスなどのコストがカットできる
テレワークをする従業員が増えると、オフィスのスペースを縮小することが可能になります。これまでより小規模なオフィスに移転することで、賃料や光熱費を削減できるでしょう。また、オフィスに必要なデスクやOA機器といった備品の数が減り、コスト削減につながります。
人材を確保しやすい
実績のある優秀な人材でありながら、育児や介護の負担が重く、仕事に復帰できずにいる例は少なくありません。テレワークを導入することで、フレキシブルな働き方が可能になると、そうした人材の活躍の場が広がります。
従業員満足度の向上
テレワークで仕事以外の時間が充実することにより、従業員満足度が向上し、エンゲージメントが高まります。

4. テレワークのデメリット

テレワークにはメリットが多くある一方で、従業員と企業、双方にとって次のようなデメリットもあります。

従業員が孤独を感じやすい
オフィスでのちょっとした雑談が気分転換になったり、励まし合うチームの連帯感が仕事のモチベーションになったりすることは多いものです。その点、テレワークは同じ空間で働く仲間がいないため、人によっては孤独を感じる場合があり、生産性に少なからず影響を与えています。
自己管理に差が出る
テレワークになると、従業員によってスケジュール管理やタスク管理の質に差が出ます。自由な環境の中で自分を律することができる人と、気楽さに流されていい加減になる人と、性格によって管理状況が二分される可能性があります。
勤怠管理が大変
離れた場所で仕事をすると、従業員の勤怠状況をリアルタイムで確認することができません。電話やメールで何度も確認する方法は、マネジメント層はもとより、される側の部下の負担も大きいため、何らかのツールを導入して管理する必要があるでしょう。
セキュリティリスク
会社の重要なデータが詰まったパソコンや書類をオフィス外に持ち出すテレワークは、盗難や紛失といったセキュリティリスクと隣り合わせです。従業員にとっても責任重大で、テレワークを実施する前に、総合的なセキュリティ対策をしておくことが肝心です。

5. テレワークと健康課題の変化

テレワークの導入によって、従業員の生活スタイルのほか、健康課題にも下記に挙げるような変化が生まれています。
従業員の健康管理を経営的な視点で捉える健康経営において、企業はテレワークによる健康課題の変化を敏感に察知する必要があります。

5-1.生活習慣病リスクの増加

健康課題である身体活動量が減少したことで、生活習慣病リスクが増加しました。
筑波大学大学院と、健康機器メーカーが都内にオフィスがある大手企業の社員約100人(平均年齢48歳)を対象に行った研究では、新型コロナウイルス感染症の流行によるテレワーク前後で、1日の歩数が29%減少したことがわかりました。
テレワーク後は座っている時間も以前に比べて長くなり、肥満傾向の人が増加しています。肥満は糖尿病や高血圧などの生活習慣病の原因になるため、意識的に身体活動を増やす必要があります。

5-2.メンタルヘルスへの悪影響

テレワークを導入したことで、従業員のメンタルヘルスにも影響が生じています。
ストレスが軽減したという声がある一方で、慣れない環境や一人で仕事をすることへの不安感や孤独感を抱えてしまう従業員も存在します。社員が同じ場所にいないため、コミュニケーションが不足し、上司や同僚が心身の変調に気づきにくいことにも注意が必要です。

メンタルヘルスへの悪影響

6. テレワークと運動不足の解消法

テレワークに伴う健康課題の多くは、運動不足に起因しています。下記に挙げるような、簡単な運動を積極的に行うよう働きかけ、従業員のストレス発散や運動不足の解消を図ることが大切です。

6-1.30分に1回は立つ

京都府立医科大学大学院医学研究科は、6万人超の日本人をおよそ8年間追跡したデータから、座っている時間が長いほど死亡リスクが上がるという研究結果を発表しています。
座りすぎが健康に悪影響を及ぼす主な原因は、座りすぎで下半身の血流が悪化し、代謝機能が衰えることにあるといわれています。30分に1度立つことで、血流を意識的に循環させるようにしましょう。

6-2.ストレッチをする

長時間同じ姿勢でいることによる肩こりや腰痛、姿勢の悪化も問題です。前かがみや猫背にならないよう注意し、肩を回したり、腰を伸ばしたりといったストレッチを適度に取り入れるようにします。

6-3.ウォーキングやランニングに挑戦する

通勤時間が削減された分、朝や夕方の空き時間は有酸素運動にチャレンジする絶好の機会です。運動に慣れていない方は、けがを防ぐため、軽いウォーキングから少しずつ体を慣らしていくことが大切です

6-4.オンラインによる運動プログラムを実践する

企業は、より積極的に従業員の健康をサポートするために、自己管理に任せるだけでなく、オンラインによる運動プログラムを提供するといった働きかけを行いましょう。
昼休みなどに、ストレッチや筋トレなどの参加の呼びかけを行うことで、社員同士のコミュニケーションの活性化も期待できます。

7. テレワークとコミュニケーションの改善

テレワークの普及に伴う精神的な影響は、主にコミュニケーションの不足に起因しています。じかに人と会って話す機会が減ったために、従業員によっては孤独や不安を感じやすいのです。
上司は様子を直接見ることができないため、精神的な影響を受けていることが見えにくいことも、問題を複雑化・深刻化させています。
こうした課題を解決するには、コミュニケーションツールの導入がおすすめです。気軽にやりとりできるチャットツールなどで、意識的に雑談を取り入れるようにして、従業員同士のコミュニケーションの改善を図ってみてください。

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